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コラム

不妊予防の視点で「今の時間の大切さ」を考えてみよう

前回のコラムの続きで、生殖医療専門医の佐藤琢磨医師による「不妊予防」シリーズです。

「妊娠・出産は若い方が良い」「卵子の老化」という言葉を最近よく聞きますが、今回は、妊活は早めに始めた方が良い理由を、データと共に、ご紹介しています。

「年齢」と「妊娠率」と「卵子の数」

前回のコラムでは、「妊娠出産を先延ばしにする方」が意外と多いことについてお話ししてきました。
今回のコラムでは、「不妊予防」において、「今の時間」がどれほど貴重なのかについて考えていきたいと思います。

卵子の質は、年齢と相関することが知られています。
日本産科婦人科学会が公表している、2020年に行われた体外受精での妊娠率のグラフ(図1)を参照することで、ある年齢での受精卵がどの程度妊娠しやすいかを知ることができます。
このグラフは、体外受精によりできたた受精卵の妊娠率を表しているため、卵管因子などの不妊原因の影響を取り除いています。つまり、「卵子の質」を間接的に表していると考えることができる、ということになります。

図1:1ART妊娠率・生産率・流産率2020年

出典:日本産科婦人科学会「ARTデータブック」(2020)

緑のラインのグラフが、治療周期あたりの出産率(生産率)です。
20代から32歳頃までは、妊娠率が最も高く、あまり変化しませんが、32歳から37歳頃までは妊娠率が緩徐に低下します。37歳を超えてくると、妊娠率は急激に低下してくることがわかります。
42歳になると、一回の治療で出産できる可能性は、約5%程度となります。43歳では3-4%とさらに低下します。この年齢になると、「どんなに強く妊娠を希望していても、どんなに治療を頑張っても、子供を授かれない可能性が出てくる」「治療が追いつかなくなってくる」時期に入ってきます。
また、卵子の残り数も加齢とともに減少してくるため、体外受精で一度に獲得できる卵子の個数が少なくなってきます。それにより採卵周期あたりの妊娠率も低下することが知られています。

卵子の数の指標について

こちらの図2は、卵子の数の指標となる、AMH(抗ミュラー管ホルモン)に関するグラフです。

図2 年齢別AMH(抗ミュラー管ホルモン)の変化

AMH値の中央値は、若い人だと4-5ng/ml程度ありますが、年齢とともに低下し、閉経に伴い「0」となるような指標です。このグラフで注意しなければならない点は、若い方でも一定の割合で、AMHの値が極めて低い方がいらっしゃるということです。
実際に、40歳未満で閉経してしまう方は100人に1人いると言われています。卵子は一度無くなってしまうと新たに作られることがないため、卵子が無くなってしまう状況というのは、自分の卵子で妊娠することができず、妊娠を希望される方にとっては危機的状況と言えます。卵子の数の低下は、極めて少なくならないと自覚症状として気が付きにくいため、注意が必要です。このような症状のことを早発卵巣不全と言います。

参考過去記事:
【前編】AMH(抗ミュラー管ホルモン)について
【後編】AMH(抗ミュラー管ホルモン)について

「卵子の数」と「卵子の質」

「卵子の数」が少ないことと、「卵子の質」が低下することは、独立した問題と考えられており、「卵子の数」が極端に少ない方でも、排卵さえすることができれば、その妊娠率は年齢相当であると言われています。
逆に、「卵子の数」がたくさんあったとしても、加齢による「卵子の質」の低下は平等に起こることなので、排卵さえしていれば妊娠・出産できる可能性があるという訳ではないことは前述の図1のグラフが示しています。
加齢により卵子の数・質ともに低下するため、妊活を早めに開始する(早めに結婚する)というのが、大切になることがおわかりいただけましたでしょうか。

次回のコラムでは、「妊活を始めていても、妊娠しない期間が長い場合には注意が必要である」というテーマでお話ししていきます。

  1. ※ART(高度生殖補助医療)とは、卵巣から卵子を採取し、体外で精子と授精させ、受精卵を子宮に移植する方法。
    1978年世界初の体外受精児がイギリスで生まれ、日本では 1983年に仙台市の東北大学医学部付属病院にて初の体外受精児が生まれました。

佐藤琢磨 氏

東京慈恵会医科大学 卒業
日本赤十字社医療センター 初期研修修了
東京慈恵会医科大学産婦人科学講座 入局
大学附属病院や不妊治療専門クリニックで不妊治療外来を担当。
産婦人科専門医
生殖医療専門医