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コラム

不妊予防の意味とは
~「社会全体の視点」と「個人の視点」から考えてみる~

前回のコラムに引き続き、生殖医療専門医である、佐藤琢磨医師より、「不妊予防」についての視点についてお話しいただきます。

社会全体としての視点

前回は、「不妊予防」に取り組む意義についてお話ししてきました。
今回のコラムでは、「不妊予防」の意味を、「社会全体としてのマクロの視点」と「個人レベルでの視点」から考えていきます。

近年の日本は、「女性が活躍する社会」が実現されたことにより、「妊娠・出産する年齢が高齢化(晩産化)している」ということは誰もがご存知のことかと思います。「女性が活躍する社会」が実現するという傾向は非常に望ましいことではありますが、これにより歪みが生じてしまっている部分があります。それは「不妊症」が増加してきているということです。不妊症患者が増えることは、少子化が進んでしまう一因となっていると考えられています。「健康寿命の増加」もあり、日本の少子高齢化は急速に進んでいます。少子高齢化社会では、生産年齢人口が減少することが避けられず、国民総生産(GDP)成長率が低迷することが懸念されています。政治・経済の様な広い視野で考えても、少子高齢化への対策として、不妊予防に取り組むというのは理にかなっており、価値のある取り組みであると考えています。不妊治療の保険適用や、育児・出産に補助金が出るということで、金銭的負担が軽減したことで、妊娠・出産を考えやすくなってきてはいますが、それだけではなかなか状況が改善する兆しが見えないというのが現状です。

個人レベルでの視点が大切

私は、個人レベルの視点から考えていくことが、不妊症患者が増加している問題の解決策になると考えています。ここでは「キャリアの形成」や「そもそも人間の幸せとは何か?」という観点から考えていきたいと思います。個人レベルでの幸せを追求・実現できた結果として、不妊症患者が減り、さらには、少子高齢化のスピードが減少できれば良いと考えています。

妊娠・出産を希望する場合には、早期に病院を受診すること、早く結婚しようと思えること、早く妊娠しようと思えること、が大切になりますが、その理由を説明していきます。

幸せな状態とは?

「人間の幸せ」を考えると、さまざまなことが考えられますが、代表的なものとしては、

  1. 「自分の思い描く人生を送れていること」
  2. 「自分の能力を最大限に発揮できていること」
  3. 「コミュニティーに所属し、貢献できていると感じられること」

などがあります。

このうち、1.「自分の思い描く人生を送れていること」というのに注目していきます。

仕事は個人のアイデンティティを形成する核になるものと言われており、共働き世帯であっても、妊娠・出産を理由に女性がキャリアを諦めることがない状態が理想的と考えます。

「キャリアも、家庭も、子供も、自分が望めば、その人生を実現できる」状態を、ここでは理想的な状態と定義します。

妊娠・出産を望まない人にとっては、性別に関係なく、自分の才能が十分に発揮され、評価され、キャリアを形成できる社会が理想です。

妊娠・出産を望む人にとっては、妊娠・出産をしてもキャリアを構築できる社会、可能であれば、妊娠・出産を先にしてから、キャリアを構築できる社会を創造できればと考えています。

加齢による妊娠への影響を軽く考えるのは危険

しかし現実には、「妊娠・出産したらキャリアを構築することができない」、「産休・育休を取ると仕事に穴を開けてしまうことになり同僚に迷惑がかかる」、「タイミング的には今ではなく、5年後くらいをイメージしている」など、それぞれ個人によって考え方が異なると思います。

実際にそのように行動を選択してきた結果、いざ妊娠出産を目指しても加齢の影響によりなかなか妊娠できなくなっているという方や、不妊治療をしていてもなかなか授かることができない状況になっていた、という患者様によくお会いします。「妊娠は自然に待っていればできるもの」と考えている場合や、「加齢により妊娠しにくくなることを漠然と知っていたけど軽く考えていた」という場合が多い印象です。

クリニックや病院を受診する人は、比較的、妊娠についてよく考えていて、情報を事前に調べている方が多いですが、病院を受診する前の段階の人であれば、「そもそも加齢により妊娠しにくくなることを知らなかった」や「加齢による妊娠への影響は知っているけど、仕事のため受診する時間がとれない」という方が多くなるのではないかと予想しています。

妊娠・出産を先延ばしにしなくてよい社会へ

さまざまな理由で、「妊娠・出産を先延ばしにしてしまった」「病院受診が必要な症状があるのに、放置してしまった」方が、自分の望む人生プランに従って、妊娠・出産にトライする時には、それを実現するチャンスが低下しているというのが現状ではないでしょうか。多くの方が想定しているよりも、加齢によって妊娠出産の可能性が大きく変化してくるため、自分の望む人生プランを見直す必要性があります。

次回のコラムでは、加齢による卵子の質や数の変化について、データをお示ししながら考えていきたいと思います。

佐藤琢磨 氏

東京慈恵会医科大学 卒業
日本赤十字社医療センター 初期研修修了
東京慈恵会医科大学産婦人科学講座 入局
大学附属病院や不妊治療専門クリニックで不妊治療外来を担当。
産婦人科専門医
生殖医療専門医