不妊予防の大切さ
~なぜ不妊予防に取り組むの?~
皆さんこんにちは。
今回からは、生殖医療専門医の佐藤琢磨医師より、不妊治療の現場でご経験された出来事や、先生の不妊予防・治療に関するお考えなど、シリーズにわたってご紹介できたらと思います。
「不妊予防」になぜ取り組むのか?
「不妊予防」に関するコラムを担当させていただきます。産婦人科医師の佐藤琢磨です。皆様のお役に立てるような記事を目指していきますのでよろしくお願いいたします。
初回は、「不妊予防」の大切さについて説明させていただきます。
コラム連載にあたり、自己紹介も兼ねて記載させていただきます。私は、不妊治療の診療をクリニックや病院などで行なっています。患者さんが病院を受診すると、問診やスクリーニング検査で、患者さんのその時点での状態を確認していきます。患者さんの状態と、「何人子供が欲しい」「いつまでに欲しい」「どんな治療をしていきたい」などのご夫婦としての希望を考慮し、治療計画を立てていきます。
日々の診療では、ご夫婦の努力の結果として、運よく不妊治療が奏功し、妊娠出産により新しい家族のかたちを作る一助になれることは大変嬉しいことでやりがいを感じていますが、一方で、なかなか不妊治療がうまくいかない患者さんもいらっしゃり苦心しているというのが現状です。
そのような患者さんの中には、初診の時点で、「加齢により卵子・精子の質や数が低下」している場合や、「長年放置されてきた婦人科疾患」などによりコンディションが悪化している場合も多く、予防の必要性を強く感じています。特に「加齢による卵子・精子の質や数が低下」は、現在の最新の治療を以てしても、それ自体を治療することができないということが大きな問題となっています。加齢による影響は避けられず、誰にも平等に起こっていきます。あと数年早く病院にきてくれれば状況が変わっていたかもしれないと感じることもあり、これらの問題に対処するため、「不妊予防」が大切であると考えるようになりました。
「不妊予防」とは?
ここでの「不妊予防」とは、
- 将来的に不妊症の原因となってしまうような疾患を放置せず、治療介入していくこと。
- 加齢による不妊への影響を回避すべく、人生の早い段階で妊娠出産をトライするように働きかけること。
を意味しています。
これらに対するアプローチとして、月経痛、月経不順などの症状(参考記事①・参考記事②)や加齢による影響を放置せず、自分自身で早めに対処していくことの重要性を知識として啓発し、早めに行動できる社会的風潮を創っていく必要があります。
自分に最適な情報を得ることは難しい
「婦人科や不妊専門クリニックの受診は心理的なハードルが高い」「これは受診する必要がある症状なのか?」、「行っても何を相談すればいいのかわからない」などの理由で、病院やクリニックを受診するまでに長い時間がかかってしまう傾向にあります。また、インターネットで検索することで、必要な情報が取得できるはずではありますが、主体的に情報を取りに行ったりする人は少なく、また、検索してみても、どれが自分に合った情報なのかわからない、正しい情報かどうか判断できないということもあり、最適な情報を得ることの難しさがあります。
医療者による企業研修の大切さ
そこで、「医療者が病院で患者の受診を待つのではなく、将来の患者を減らすべく、医療者の方から必要知識を啓発しに出かけていく」という能動的なアプローチが必要であると考えるようになりました。
また、患者側に不妊症や不妊予防に関する知識があったとしても、職場の理解が得られず、仕事をしながら行動変容に繋げていくことが難しいこともさまざまな調査で明らかになっています。
近年では、企業側も女性の労働環境を改善するために、不妊症や女性特有の体調不良へ対応することが求められるようになってきているため、仕事も、家庭も、妊娠も大切にしたい女性にとっては、追い風になっていると考えています。企業研修という形で、当事者の知識の啓発を行うとともに、職場の上司や同僚に対しても「不妊症を含めた女性の健康に関する問題」を理解してもらうことができれば、困っている人が上司や同僚に相談しやすい環境を創ることができ、女性の健康問題に悩む方が働きやすい環境を作りながら「不妊予防」を行なっていくということが可能となります。企業研修は、「不妊予防」を進めていくための最も効果的なアプローチであると考えています。
今後のコラムでは、医学的、社会学的な知識をベースとして共有しながら、「不妊予防」について考察を行っていく予定です。