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コラム

【前編】卵子凍結について~社会適応の卵子凍結に対する考え方~

今回は、「卵子凍結」について、前編・後編の2回に分けてお話できればと思います。

卵子凍結とは、体外受精の際に一般的に行われている「受精卵凍結」とは異なり、精子が用意できない場合に、卵子のみを凍結する方法です。卵子凍結の卵子を使用し出産した例は以前よりありましたが、今までは「医学的適応」が多かった印象です。

卵子凍結の目的として、「社会的適応」と「医学的適応」の違いについて、下記に記しました。

卵子凍結の「社会的適応」と「医学的適応」の違い

「医学的適応」の卵子凍結

若年性の悪性腫瘍の治療のため、抗がん剤や放射線療法などを行うことによって、卵子が減少する可能性が高い場合に、将来使用する卵子を治療前に確保することを目的とした卵子凍結。

「社会的適応」の卵子凍結

病気ではなく、健康な女性が、パートナーがまだいない、仕事を優先にしたいなどの事情で妊娠・出産を先延ばしにする場合に、加齢による卵子の消失や老化による卵子の質の低下を懸念して、将来的に若い時点での卵子を使用する可能性を残すことを目的とした卵子凍結。

社会的適応の未受精卵凍結に対する考え方

日本産科婦人科学会「推奨しない」

日本産科婦人科学会(以下、日産婦)は、2014年4月に、医学的適応による卵子凍結については肯定的な見解を示しましたが、社会的適応については、卵子のみの凍結は技術がまだ確立しておらず、出産の確率も低く、また、社会的適応での卵子凍結が浸透すると妊娠の機会を先送りし、高齢出産のリスクが増える可能性などから、2015年6月に推奨しないとしています。

日本生殖医学会⇒「40歳以上は推奨しない」

日本生殖医学会では、2013年8月、社会的適応での未受精卵凍結のガイドラインを発表しました。

「加齢等の要因により性腺機能の低下をきたす可能性を懸念する場合には、未受精卵子あるいは卵巣組織(以下「未受精卵子等」という)を凍結保存することができる。」としていますが、2018年に新たな見解として、36歳以上での凍結や45歳以上での凍結卵子の使用は推奨しない(本文では、生殖年齢を超えた使用と記載)と発表しています。

社会的適応の卵子凍結の実際は・・・

2014年の時点で、日本産婦人科学会が「推奨しない」とする理由は、未受精卵凍結の技術がまだ確立していなかったこと、出産を先延ばしにすることによる高齢出産のリスクを懸念しての見解と思われます。

2015年2月には、千葉県の浦安市が20~34歳の女性を対象に、社会適応の卵子凍結の費用に対し一部負担する旨発表しましたし、企業でも、福利厚生として、卵子凍結の補助金を出す会社も増えてきました。

しかし、2018年の時点でも、日本生殖医学会は「加齢等の要因により性腺機能の低下をきたす可能性を懸念する場合には、未受精卵子あるいは卵巣組織(以下「未受精卵子等」という)を凍結保存することができる。」という見解にとどまっています。

卵子凍結は、日本では比較的最近普及してきた技術ですので、長期的な安全性についてはまだ不明なことも多いです。例えば、卵子を数年単位で凍結した事による影響や、卵子の段階で凍結した後に、体外受精を用いて出産した児の発育などの関しては、長期的に経過観察を行うことによって初めて明らかになります。今後、海外での使用例などの情報が蓄積してくると、新たな見解が出てくるかもしれません。

卵子凍結は、加齢による卵子の数・質の低下から女性を解放する選択肢ではあるものの、まだ新しい技術です。さらに情報を得たい場合や、自分に当てはまるのか、相談したい場合には不妊治療専門の病院にかかってみることをお勧めします。

「卵子凍結」の選択肢を「知る」こと

「卵子凍結」という選択肢を知らない中で、結婚・妊娠が遅かった場合に、「そのような方法があったことを知らなかった」「知っていたらやっておきたかった」とおっしゃる患者様に、不妊治療の現場で出会うことがあります。

「知らなかったから選べなかった」
「知っていたけど選ばなかった」

 この二つは、将来、大きな違いが出てくるかもしれません。

メリット・デメリットを知り、自分らしいライフプランの選択に、「卵子凍結」を「知る」ことから始めてみてはいかがでしょうか?

次回、後編では、卵子凍結の方法についてお話しできればと思います。

記事の感想や、取り上げてほしいテーマなどございましたら、お気軽に、お問い合わせフォームにてお知らせくださいませ。

荒木依理

不妊症看護認定看護師
生殖医療コーディネーター