「妊孕性(にんようせい)」の低下ってどういうこと?
「妊孕性(にんようせい)」という言葉をご存じでしょうか?これは、女性の生殖能力(妊娠する力)と考えてもらってよいと思います。メディアでは、芸能人の高齢での出産報告など耳にしますが、本来女性の妊孕性は加齢とともに低下していくことが知られています。
不妊治療の妊娠率や流産率は?
不妊治療専門クリニックでは、40代の患者様も多く、病院に来たら必ず妊娠できると思っている方もいらっしゃいます。確かに生殖医療技術はここ数十年で劇的な発展を遂げていますが、日本産科婦人科学会が毎年発表する高度生殖医療(ART1)の最新データ(2019)によると、流産率は、30歳が15.6%のところ、40歳では32.9%と倍以上と報告されています。ですので、体外受精・顕微受精などの高度生殖医療を利用して妊娠したとしても、出産まで辿り着ける確率(生産率)は、30歳で21.8%に対し、40歳では9.8%と半分以下になります。(参考:日本産婦人科学会ARTデータブック2019年)
グラフをご覧のように、加齢に伴い、流産率は上がり、出産できる可能性は明らかに低下していきます。
医療が発達して健康寿命は延びたけど、妊娠できる期間も延びた?
現代の日本は医療技術も進歩し、世界一の長寿大国となりました。昔とライフスタイルは変わって大学に行く女子が増えたり、女性の社会進出が当たり前となり、結婚の年齢やスタイルも多様化しています。しかし、決して妊娠できる期間が延びているわけではなく、生物としての妊孕性は昔と変わらないのです。
不妊治療の現場では、仕事のために晩婚になった、あるいは 20代で結婚したのでなんとなく自然にできると思っていた、夫婦で計画立て避妊をし、いざ作ろうと思ったらできなかったという声を聞くことも多いです。仕事が忙しくて、妊娠や検査に踏み出せない方もいらっしゃるかもしれません。妊娠適齢期を過ぎて、妊娠を先延ばしにすることで不妊という状況を作り、少子化を加速させているのではないでしょうか。
不妊の情報は、性教育で教えてもらいましたか?
晩婚化が当たり前になり、独身や子供のいない夫婦に囲まれ、それでもまだ自分には当てはまらない、自分には関係のない話だと考えていないでしょうか。しかしそういった認識は、加齢により不妊になることを学校教育で教わっていないからかもしれません。
私たちは、性教育といえば、避妊や性感染症の予防程度の知識しか教わっていないような気がしませんか?「不妊」「妊孕性」という言葉は聞いたことないのではないでしょうか。
最近ではよく聞くようになった「卵子の老化」という言葉が表すように、妊孕性に関わる最大要因が年齢であることはもちろんですが、妊娠までに子宮内膜症や子宮筋腫となり妊娠を希望した時に妊娠しにくくなっている、あるいは、感染対策をせず性交を持っていたために感染症による卵管炎などで不妊になっていたということも考えられます。
あなたのライフプランで大切なこと
いずれにしても、私たちが教育された若年齢での望まない妊娠を避けるための避妊という考え方は重要ですが、卵子の質は加齢で確実に低下することを理解し、普段から自分の身体のケアを忘れずにライフプランを立てることが重要です。
今、いちばん大切なのは、大学や会社、転職を選ぶ前に、加齢により妊孕性は落ちることを考慮してライフプランを立てること。現時点での自分の体について知り、ケアを行い、妊娠を希望した時に、すでに妊娠できなくなっていたという状況を避けることです。
つまり、妊娠することを目的とするのではなく、望んだ時に授かる準備をしておくということです。
子供をもたない選択をする場合でも…
一方、将来子供をもつことを考えていない方も、自分の身体について知っておくことは大切です。妊娠の目的以外にも、婦人科を受診しておくことで、子宮内膜症、子宮頸がん、子宮体がんのような健康を損なう可能性のある病気を見つける契機にもなることでしょう。
また、今は子供をもつことを考えていなくても、年齢を重ね、環境が変わり、出会うパートナーによっては、考えが変わるかもしれません。
「知らなかったので選べなかった」と「知っていたけど選ばなかった」という違いは、今後の人生を過ごしていく中でとても大切なことだと思います。
加齢による変化は巻き戻すことはできないからこそ、どのようなライフプランの選択であっても、妊孕性の低下、不妊の予防に関しては、ぜひ知っておいて頂きたいと思います。