子宮頸がんや乳がんの治療を受けても妊娠できる!~妊孕性の温存~
子宮頸がんや乳がんは若い世代に増えている病気です
女性に特有な病気である子宮頸がんや乳がん。がんは若いうちにはかかりにくいと考えている方もいるでしょうが、これらのがんは最近若い世代に増えています。
子宮頸がんは20~30代、乳がんは30~40代の女性に増えており、死亡者数も徐々に増加しています。
これらのがんは、がん検診が有効であることがわかっており、早期発見・早期治療をすれば治る可能性が高くなります。そのためにも2年に1回の検診は必ず受けることをおすすめします。
子宮頸がんの症状や原因とは?
子宮頸がんは、子宮頸部異形成と呼ばれる「癌になる前の状態」を数年経てから「癌」になります。そのため、1〜2年に1回の検診でも有効であるという報告があり、それ以上の頻度で検診を受けても予防効果はあまり変わらないといわれています。
子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染がリスク因子だといわれています。HPVは性交渉により感染し、多くの女性が1回は感染するといわれているほど身近にあるウイルスです。このウイルスに感染しても免疫機能により排除されるため、多くの人の細胞はがん化することはありません。しかしながら、ハイリスクHPVといって、特定の型のヒトパピローマウイルスに感染してしまうと自分の免疫機能では排除できず、持続感染が起こってしまいます。
子宮頸がんでは、性交後の出血や膿のようなものが出てくることがあります。さらに進行すると下腹部や腰の痛み、血尿などが出ることがあります。
子宮頸がん予防のための予防接種を受けましょう
子宮頸がんの原因はHPVに長期間感染することですが、このウイルスの感染を予防するワクチンがあります。予防接種は絶対に受けなければいけないということはありませんが、ワクチン接種により子宮頸がんを減少させる効果があるため、出来るだけ予防接種を受けたほうがよいでしょう。
HPVワクチンは、3回接種が必要です。また予防接種をしたからといって、2年に1度の検診を受けなくてよいということではありません。ワクチンは有効な予防法ですが、接種したら絶対にHPVに感染しなくなるわけではないからです。予防接種を受けてさらに検診も受け続けることで、より高い予防効果が期待できるようになります。
乳がんの症状や原因とは?
乳がんは乳腺の組織にできるがんです。初期には無症状ですが、ある程度の大きさになると胸にしこりを自覚することがあります。さらに進行してくると左右の乳房の形が異なってくる、乳房の皮膚がただれてくるなどの症状がでてきます。乳がんは自分やパートナーが発見することができるがんといえますが、発症初期には、自覚症状を発見できないことが多いため、定期的に乳がん検診を受け早期発見を心がけることをおすすめします。
乳がんの治療は、主に手術や放射線治療、薬物治療があり、がんの進行度、転移の有無などによってどの治療法を選択するのかは変わってきます。
がんの治療を受ける前に妊孕性の温存の選択肢があります
子供が欲しい女性ががんの治療を受けることになったとき、妊娠や出産はできるのだろうか?という不安に直面します。
これらのがんは若い女性に増えているため、妊娠・出産の時期と重なってしまったという方は少なくないでしょう。
卵子の質は年齢とともに落ちていき、卵子の数も減っていきます。長期間に及ぶがん治療が終わり、妊娠を許可されるようになったときには、妊娠しにくい年齢になっている可能性もあります。
また抗がん剤や放射線療法など卵巣機能を低下させる治療を受けた場合は、治療後にまだ年齢が若かったとしても、妊娠しにくくなっている可能性があります。
今までは、がん自体の治療成績が悪く、がんにより亡くなられる患者さんが多かったので問題とならなかったのですが、がんの治療方法が改善したことや、がん検診の普及により比較的初期でがんを診断できるようになったことで、治療成績も向上しがんを克服される方(がんサバイバー)が多く見られるようになってきました。現在では、がんサバイバーとなった方の生活の質(QOL)に注目が集まっています。
また治療成績の向上により、がんは治ったけど子供は諦めなければいけない、という状況を回避するためにがん生殖医療という概念が生まれました。がん生殖医療とは、妊孕性の温存といって、体外受精の技術を用いて、「将来妊娠する可能性を残す」治療のことです。
これは、治療を受ける前に受精卵・卵子・卵巣組織を凍結保存しておき、妊娠できる状態になったらそれらを解凍し妊娠に挑戦するという治療になります。
しかし、妊孕性の温存という選択を検討したい場合には、がん主治医に、がんの治療によりどのような影響があるのか詳しく聞き、家族やパートナーとよく相談したうえで不妊治療専門医の受診をすることをおすすめします。がんと診断されてからは、できるだけ早くがんの治療を開始することが望ましいため、妊孕性の温存にかけられる時間は長くありません。がんの診断を受けたらすぐに、主治医に相談し、不妊治療専門医と連携して方針を検討していく必要があります。
受精卵・卵子凍結、卵巣組織凍結とは?
妊孕性の温存には受精卵・卵子凍結と卵巣組織凍結があります。それぞれの特徴や違いなどをご紹介します。
受精卵・卵子凍結
卵子凍結とは卵子を卵巣から採取し受精させずに凍結することで、受精卵凍結とは受精した胚を凍結保存することです。卵子凍結や受精卵凍結を経て出産した方が世界には大勢いるため、妊孕性の温存としては確立されている方法といえるでしょう。しかし、採卵まで時間が14日間程度かかるためがんの進行程度によっては実施する余裕がない可能性があります。極力早期に不妊治療専門医と連携することが大切です。
卵巣組織凍結
卵巣組織凍結は、卵巣を手術で摘出して凍結しておくことです。卵巣ごと凍結するため、保存できる卵子の数が多く、将来卵巣を解凍し体内に移植すれば、自然妊娠できる可能性もあります。また卵巣ごと摘出するため、卵子凍結よりも短時間で実施することができます。しかし、卵巣組織凍結と卵巣移植は世界で100例程度の出産が報告されているに過ぎません。よって、現在では研究段階という位置付けになります。またこの方法では、もともとがん患者さんの卵巣組織を凍結しておき、体内に移植する形になるので、万が一がん細胞が卵巣組織に含まれていた場合に再発する危険性なども考慮する必要があるといわれています。
受精卵・卵子凍結、卵巣組織凍結をするメリット
妊孕性の温存を行うことを選んだことで、治療後に保存しておいた卵子や受精卵を使って妊娠する可能性を残すことができるという直接的なメリットがあるだけではありません。受精卵・卵子凍結を選ばなかったり、がん治療までの時間的猶予がなく選べなかったりした場合であっても、その人に与えられたそれぞれの状況で、自分の現状と向き合い、最善の選択を自分で決断したという体験自体が、豊かな人生を送るためには大切なことになるでしょう。
若いうちから不妊や不妊予防について正しい知識を身につけましょう
日本での妊孕性の温存は、まだがん患者など限られた方だけの選択肢かもしれませんが、近い将来多くの人が利用するようになるかもしれません。実際、アメリカでは社会的卵子凍結といって、健康な人が将来の妊娠の可能性を残すために卵子凍結を行うという選択する女性も増えています。様々な人生の選択肢ができる時代になってきているといえるでしょう。
日本でもそのような時代に備えて、若いうちから不妊や不妊予防、出産などについての正しい知識をアップデートしていくことが重要です。