不妊治療の現状と体外受精の助成金支援について
不妊治療の種類と方法
なかなか自然に妊娠しないカップルの中には、不妊治療を受ける方たちがいます。不妊の原因に応じて負担の少ない治療から始め、妊娠しない場合は次のステップに進みます。それでは不妊治療の種類と治療法などをついてご紹介していきます。
タイミング療法
超音波で排卵日を正確に予測し排卵日の二日前から当日に性交を行い、自然妊娠の確率をあげる治療法です。
タイミング療法は、6回前後までに妊娠するカップルが多いです。そのため、1ヶ月に1回タイミング療法を行うとして6ヶ月試して妊娠しなかった場合は、次のステップに進むことを検討していきます。
男性と女性も不妊症スクリーニング検査をした結果、自然妊娠できる可能性があるとわかったカップルが対象となります。また、異常が見つかった場合、タイミング療法で妊娠が可能かどうかは、異常の程度や年齢などを考慮して判断する必要があります。
初診の段階で高齢の方や、実質不妊期間(妊活しているのに妊娠しない期間)が長い方では、タイミング療法を試すことなく人工授精や体外受精などの不妊治療を検討していきます。
人工授精(AIH)
人工授精は、一般的にタイミング療法の次のステップで行う不妊治療となります。性交障害と言って、性交自体ができないカップルが不妊治療を行う場合にも選択されます。
タイミング療法と同様に、排卵日を予測し、予測された排卵日に採取した精子から元気な個体を集めて、カテーテルを用いて子宮内に注入する方法です。精子を子宮内に入れるだけなので、出産まで経過は自然妊娠とほとんど変わりません。経膣超音波で卵胞の大きさを確認することで、排卵日を正確に予測します。
高齢のカップルでは、タイミング療法を試さずに人工授精から始めるケースもあります。人工授精で妊娠する女性は、最初の人工授精から3回目までに妊娠することが多いため、5~6回試して妊娠しなかった場合は、体外受精や顕微授精などの次のステップに進むことを検討していきます。
現在、人工授精には保険の適用はありませんがそれほど高額でない(1ヶ月あたり2-3万円程度)ため、何度も試しやすい治療法といえるでしょう。
体外受精胚移植(IVF-ET)
自然妊娠や人工授精を行ったにもかかわらず妊娠に至らなかった方や不妊症スクリーニング検査で、タイミング療法や人工授精での妊娠が困難と判断された方が行う治療が体外受精です。
体外受精は、卵子と精子を取り出して培養液の中で受精させ、3~5日間受精卵を培養します。順調に細胞分裂を繰り返した良好な胚を子宮内に移植する方法です。胚移植後、胚の着床と妊娠維持のために、黄体ホルモンを補充する場合もあります。
移植は、培養した胚をそのまま移植する新鮮胚移植と、一旦凍結保存して翌週以降に移植する凍結胚移植が行われています。
現在、体外受精と顕微授精には保険の適用はありませんが、令和4年度から保険適用を実施することを目標に調整が進められています。また、2021年1月から不妊治療の助成金が受けやすいように変更されたので、内容をしっかり確認しておきましょう。
顕微授精(ICSI)
顕微授精は、体外受精を行っても受精できなかった方が行う治療法です。一度、体外受精を行い受精できなかった方、検査で体外受精では受精が難しいと判断された方、凍結保存卵子を利用する方なども顕微授精を行います。
卵子と精子を取り出して受精させることは体外受精と同じですが、顕微授精では、ひとつの精子を選び顕微鏡下で細い針で直接卵子の中に注入し授精させる方法です。
最新の培養装置・タイムラブスインキュベーター
タイムラブスインキュベーターは新しい培養装置です。以前のインキュベーターは、受精卵を観察するときに、インキュベーターの外に出さなければいけなかったため、受精卵のその後の成長に影響を与えてしまう可能性がありました。しかし、タイムラブスインキュベーターは、24時間受精卵の発育を一定時間ごとに自動で撮影し、受精卵をインキュベーターの外に出すことなく観察できます。
観察するときにも同じ温度、湿度に保つために、機器の開閉を極力減らし良好な培養環境を維持できるように設計されています。
不妊治療の助成金支援拡大での変更点は?
2021年1月から体外受精(顕微授精を含む)の助成金支援の制度が変更されました。治療開始は2021年1月以前でも、妊娠判定を2021年1月に行っていれば利用することができます。
助成金支援の主な内容を変更された点を中心にご説明します。
対象年齢
支援の対象となる年齢は妻が43歳未満という点は変更ありません。しかし、以前は事実婚のカップルは利用できませんでしたが、変更後は事実婚のカップルでも支援を受けることができるように変更されました。
助成金額
助成金額上限が30万円という点は変更ありません。以前は初回だけ30万円の助成金を受けることがで、2回目以降は15万円しか受けることができませんでした。しかし、変更後は2回目以降も30万円の助成金を受けることができるように変更されました。
回数制限
以前は、40歳未満の方は通算6回まで、40~43歳未満の方は通算3回まで支援を受けられました。通算6回というのは、何人子供を産んだとしても支援を受けられるのは生涯通して6回までという意味です。変更後も年齢制限は同じですが、支援を受けられる回数が子供を産むごとにリセットされるように変わりました。
所得制限
今回最も大きな変更点は、所得制限がなくなったことといえるでしょう。
以前は、夫婦合算所得が730万円以下の方しか支援を受けることができませんでしたが、所得制限が撤廃されて誰でも支援を受けられるように変更されました。
所得制限がなくなったため、誰でも支援を受けながら不妊治療を行うことができるようになりました。
男性不妊治療に対する支援
男性不妊治療の助成金の上限は15万円でしたが、上限が30万円に変更されました。これは、男性不妊治療だけに対する助成金で、体外受精を行ったときに支援を受けられる30万円とは別です。そのため、男性不妊治療を受けたあとに体外受精を行ったカップルは、60万円の支援が受けられるようになりました。
(※2021年1月30日 株式会社ポピンズホールディングス主催:不妊予防・治療オンラインシンポジウムの内容より記事化いたしました)