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海外における不妊症・妊孕(にんよう)力保存に関する認識の拡大

不妊症への認識の高まり

以前は米国の企業の福利厚生には不妊治療は含まれていませんでした。しかし、不妊症への認識が高まるにつれ、法律で企業の福利厚生に不妊治療ならびに妊娠力の温存治療を含めることを定める州が増えてきています。

また、不妊症への認識の高まりは、就職活動にも影響するようになってきています。就職活動をしている方の32%が「不妊治療ならびに妊娠力の温存等の福利厚生がある会社を就職先に選びたい」というアンケート結果もあります。このようなことからわかるように、若いうちから不妊症の検査を受けて、妊娠力の温存などを望んでいる方が増加しています。

そのため2019年には州の法律にかかわらず大企業の66%が、優秀な人材を確保するために不妊検査・治療、妊娠力の温存、提供卵子などを福利厚生に含めてきています。

積極的な治療方針に早期チャレンジ

不妊症への認識の高まりから若いうちに元気な赤ちゃんを産むために、早く出産につながる治療を受ける方がいます。また、経済的・肉体的な負担や希望するライフプランのために、双子や三つ子を避ける治療に注目が集まってきています。

年齢と妊娠率の関係と不妊の原因について

不妊治療を受けた方の年齢は、妊娠率に大きな影響を及ぼします。また、高齢化による不妊の原因には、染色体数の異常が関係していることがわかっています。

人工授精による妊娠率と年齢の関係

人工授精による妊娠率と年齢の関係

このグラフは、排卵誘発剤を使った人工授精を受けた方の年齢と妊娠率を表したものです。

35歳未満の方が1回の人工授精を受けると約12%の方が妊娠していますが、高齢になるにしたがい妊娠率は下がっていることがわかります。また、人工授精を9か月間受けた35歳未満の方の妊娠率は約25%という結果になっています。これより、人工授精を受けた年齢と妊娠率は、大いに関係があることがわかります。

大部分の方は2~3ヶ月以内に妊娠していることがわかっているため、若い方でも人工授精を受け始めて2~3ヶ月後に妊娠に至っていない方は、体外受精に早く進んだ方がよいケースもあります。

高齢化による不妊の大きな原因は染色体の数の異常のため

染色体の異常があると受精卵が正常に育たなかったり、受精卵が育っても着床に至らなかったり、着床しても流産になってしまう可能性が高くなることがわかっています。

自然妊娠をした方の流産でも、約7割は染色体異常が原因であるともいわれています。

また、高齢化とともにダウン症候群などの他の先天的異常も、染色体数の異常のために増えてきてしまうことがわかっています。

染色体異常のスクリーニング検査とリスクファクター

染色体異常を治療することはできませんが、染色体異常がない受精卵を調べてそれを戻すことで体外受精の成功率を高めるということが米国では増えています。

染色体異常のスクリーニング検査

着床前の胚盤胞からいくつかの細胞を取り出して、そこから染色体の数の異常を診断することができる検査です。

診断結果が出る2週間の間は胚盤胞を凍結して、診断結果が出たあとで解凍し正常な数の染色体を持った受精卵だけを移植することで着床率を高めることができます。

卵子老化は染色体数異常の最大のリスクファクター

卵子老化は染色体数異常の最大リスクファクター

このグラフは、年齢ごとに正常な染色体を持った受精卵と異常染色体を持った受精卵の割合を表しています。

30歳未満では約7割が正常な染色体を持った受精卵ですが、高齢になるとともに正常な染色体を持った受精卵の割合が下がり、異常な染色体を持った受精卵の割合があがっています。これより高齢になると妊娠しにくく、流産が増えてしまうことがはっきりとわかってきました。

正常な染色体数を持った受精卵を移植すれば高い出生率が可能

正常な受精卵移植によって高い生産率が可能

一番左の青色の棒グラフは、正常な染色体を持つ受精卵を移植して体外受精した場合の出生率を表しています。正常な染色体を持った受精卵を移植させ体外受精すれば、35歳未満では77%、41~42歳でも63.3%と高い出生率となっていることがわかります。また、流産率も約5%と非常に低い結果となっています。

しかし、高齢の方は良い受精卵を作ることが難しいという現実があります。そのため米国では、高齢の方は30歳未満の女性から卵子を提供してもらい、それから作った受精卵を移植するといった方法を取ることがあります。

妊娠力の温存

若いうちに出産した方がよいということがわかっていたとしても、結婚時期や仕事、経済的なことから難しい方も少なくありません。そのようなとき、若いころの卵子や受精卵を凍結保存しておく妊娠力の温存が選択肢のひとつとなります。

日本で開発されたガラス化凍結保存によって、凍結した卵子の生存率が98%まであがりました。このガラス化凍結法の開発によって2009年以降、米国では卵子凍結を選ぶ女性が11倍に増加したのです。また、2016年には米国全体の体外受精治療を受けた方の25%は、最低1年は待って後ほど妊娠を試みるために卵子凍結と受精卵凍結を選択しています。

高齢の方の卵子や受精卵の質は低いため、解凍して移植しても出生率は低くなってしまうのです。卵子や受精卵を凍結するために一番良い年齢は、33~37歳といわれています。

また、ガラス化凍結法によって卵子凍結ができるようになったため、米国で現在提供されている卵子の70%は卵子バンクにある凍結された卵子を使用しています。それによって現在は費用がかなり抑えられるようになりました。

卵子凍結ができるようになったメリット

卵子凍結ができるようになり、女性の妊娠に対する年齢的なプレッシャーがかなり軽減されました。それによって仕事に専念できる環境を作りやすくなりましたし、自分のペースで妊活を行えるようにもなったのです。

しかし、若い頃の卵子を凍結保存しておいたからといって、必ず妊娠できるわけではないということを覚えておいてください。若いうちに自然に妊娠することが最もよい方法であるため、全ての女性に卵子凍結保存を勧められるというわけではありません。

(※2021年1月30日 株式会社ポピンズホールディングス主催:不妊予防・治療オンラインシンポジウムの内容より記事化いたしました)

田附 サリー 氏

カルフォルニアCCRMグループ
不妊治療専門医